井上隆史さん(白百合女子大学教員)

Photo_2 「汝の敵を愛せよ」と言いますが、この言葉の思いがけない解釈を聞いたことがあります。憎しみの対象、嫌悪や恐怖の対象としての敵は、どこにいるのか? それは、私の外にではなく、私の内部に存在しているというのです。ですから、敵を愛するということは、自分を愛するということです。しかしその自分とは、自分では認めたくない自分、自分にとって意想外の自分、自分の理想像とはかけ離れた自分、敵としての自分です。

どんなに認め難い存在であろうとも、それを自分自身に他ならないものとして、進んで受け容れること。そのようにして自分の存在と正面から向き合うことから、すべてが始まる。これは簡単なことではない。しかし、私たちは自分の内部に眼を閉ざしてしまうから、自分の外部に元々は存在していなかった敵を造り上げてしまうことになる、というのです。

この解釈は、奇を衒ったもののように見えるけれども、繰り返し考えてみる価値があると思います。前に進みたいと願う者は、自分の人生を棚上げにしてはならない。そのようなメッセージとして理解することも出来ると思います。私はそのように生きたいと思うし、ホモフォビック(同性愛恐怖症的)な言動を行う人には、上に述べたような意味において「汝の敵を愛せよ」を実践して欲しいと望みます。