長谷川博史さん(日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス代表)

Hasegawa  日本社会に通奏低音のように流れるセックスフォビアにまぎれてホモフォビアの存在は曖昧になる。しかし、エイズというゲイを襲っている病を直視する時、その存在の大きさが見えてくる。

 現在もエイズ患者の報告数は右肩上がりで上昇し続けている。これは早期発見・早期治療が可能であるにもかかわらず、長年HIV感染を知らず発症させてしまった人たちだ。彼らの健康がそこなわれているその背景にはエイズにまつわる社会の中のホモフォビアとそれを刷り込まれゲイ自身が抱え込んだホモフォビアとが二重に存在している。私の30年来の友人が病床で言った言葉が忘れられない。「エイズは病気だから家族にばれてもかまわないが、自分がホモだとばれたら病院の屋上から飛び降りる」と。ホモフォビアによって彼はHIV検査から遠ざけられ、発症し、一命はとりとめたが肺の半分以上の機能を失ったのだ。

 さらに、医療者や行政の中にも増え続けるゲイの患者に嫌悪を露わにするものも出てきた。治療の現場からは医療者によるゲイへのハラスメントともとれる事例が報告され、行政でも性感染によるHIV陽性者への医療費扶助などの福祉を制限すべしという声がささやかれ始めている。

 ホモフォビアも利害が衝突しない限りには無視という消極的な差別として現れるにすぎないが、いったん利害が対立すると鋭い牙をむき、私たちに直接襲いかかってくる。この目に見えにくい敵と闘うために、これがどのような局面でどのように顕在化していくのか注意深く観察し、いざというときには力を合わせて行動する必要がある。