サンダース宮松敬子さん(カナダ、ジャーナリスト)

Miyamatsu カナダは去年7月同性婚法が成立した。国家単位で見ると、これはオランダ、ベルギー、スペインに次いで4番目の国である。だが残念ながら、今春から保守党が政権を握り、同法案の先行きに多少の翳りも見られる。

しかしこの法律が成立したとき、当時の自由党内閣の首相は「カナダと言う国はマイノリティー(少数派)の集まりであり、このような国においては、決して人権を選り好みはならない」とコメントした。つまり、主流派が主導権を握り他がそれに従うのではなく、たとえマイノリティーであっても、権利を権利として認めるのがカナダという国の姿勢だというわけだ。アジア人の一女性としてこの国に長らく生活している私は、一国の元首がはっきりと打ち出した国のあり方に震えるほどの感動を覚えた。

だが法案成立後すべての同性愛者が結婚したかと言えばそんなことはない。したいものはする、したくないものはしない。異性愛者とまったく同じである。しかしそこに選べる権利があるかどうか、それが最も大切なことなのだ。

私と同性愛者の権利との出会いは、10余年前にさかのぼる。某新聞社トロント支局閉鎖後フリーになり、日本に初めて送った記事がオンタリオ州同性カップルの法的保護に関するものであった。この取材によって、私は今まで未知だった領域に目を向け、「人権」というものを違った角度から深く考えるようになり、更には自分とは関係ないという「無知」であることの怖さをも思い知ったのだ。だがこの国も60年代後半までは、同性愛者であることだけで監獄送りになった時代があった。40年後に同性婚法が成立するなど当時誰が想像しただろうか?

この取材をきっかけに、私はたゆまぬ公民権運動によって権利を勝ち取ったカナダの同性愛者たちの歩みを日本の方に知らせたく、昨春「カナダのセクシュアル・マイノリティーたち」(教育史料出版会)という本を上梓した。

現在の日本では「同性婚」など夢の夢であろう。だがいま皆がやっている運動が、やがては実を結ぶ時代が来ることを私は信じている。