IDAHO創始者インタビュー

インタビュアー Derek Lennard(IDAHO UKコーディネーター) と Louis-George Tin (IDAHO 創始者) の対談 (2005年冬 Gay Humanist Quarterly に掲載されたものの日本語訳)

DL: IDAHOを設立し、ゲイ・コミュニティの情報を世界に発信し続けるLouis-Georgesさんにお話をうかがいます。とてもハードで大変な仕事だったでしょう。残念なことに、このインタビューでは、あなたの人生について詳しく伺う時間があまりありません。(でも、ホモフォビアがこの世から消えたあかつきには、あなたの人生はきっと映画化されるでしょう!)なので、あなたが、このように大きな国際的キャンペーンに関わるきっかけとなった、個人的、政治的経験について少しお話を聞きかせていただけませんか?

LGT: とても遠大で大変な仕事であることは確かだよ。僕は週に70時間IDAHOの仕事をしていて、2004年8月から2005年1月までたったの4日しか休みを取っていない。だけど結果には満足しているよ。個人的には、僕はゲイやレズビアンに関する研究とLGBTの政治的活動に長年関わってきた。2003年にフランスで、世界中のホモフォビアに関する調査を載せたホモフォビア辞典を出版したのだけど、そのとき理論を実践にうつすことに決めて、IDAHOを設立したんだ。

DL: あなたは自分自身を“Black Caribbean Militant(カリビアン系黒人活動家)”と呼んでいますね。これはIDAHOでの活動へどのように影響していますか。

LGT: 黒人でゲイってことだね!僕がLGBTコミュニティーで働くときは黒人であることが重要になるし、逆に黒人のコミュニティでは、ゲイであることが重要な意味をもつ。お互いをよく知らない2つの世界をつなぐ橋になろうと思っているんだ。

DL: IDAHOで重要なことの一つに、たとえばヨーロッパで、LGBTのための大規模なキャンペーンを安全に開催することができない国のLGBTコミュニティと関わってゆくことがありますよね。この一年でそういったことが成功した例を教えてくれますか?

LGT: ああ。IDAHOは国際的な記念日なので、国を超えたLGBTの連帯感を強めたいし、僕たちがそういった自分の意見を言うことを許されていない人々の代弁者にならなければならない。だから、フランスのサウジアラビア大使館の前でデモをしたり、困難な状況に陥っていたセネガルのIDAHOのメンバーのために、セネガルの大使にも話を聞いてもらう機会を設けた。
 ロンドンでもOutRage!やGALHA(Gay and Lesbian Humanist Association)によってこのようなキャンペーンが行われていると聞いている。これらは決して、「上」から助けるといった植民地時代にあったような態度ではないつもりだ。これらの国のIDAHOメンバーが協力とサポートを要請してきたから、動いたまでだ。僕の中では、これはすごく重要なことだ。助けを求めている国々に同情するだけで、助けを求める声に応えないなんてことはできない。

DL: 今年IDAHOで最も大きな収穫は何ですか?

LGT: ベルギーの議会がIDAHOを正式な記念日として認めたときや、欧州議会のボレル議長が僕たちの運動を支援するとプレスリリースしたときは、ほんとうにうれしかった。だけど、中国ではじめてLGBTのパレードが行われたときの写真を受け取ったときや、イランのLGBT活動家グループのMAHAがインターネットでキャンペーンに参加することを決めたときはもっと感動した。僕の人生の中でも特別な瞬間だった。

DL: 東ヨーロッパでのゲイ・コミュニティの苦境に大きな関心と懸念が集まっていますね。IDAHOの第1回国際会議が2006年にモスクワで開催されることにはどのような経緯があったのですか?

LGT: IDAHOのロシア代表のNikolai Alexeyevが、IDAHOの国際会議は毎年、開催すべきだと提案したんだ。その第1回は2006年5月24日から27日まで、ロシアで行われる。LGBTのパレードが一度も行われたことのない国の中でもロシアは一番大きな国だ。この会議の締めくくりとして、彼はロシアで初めてのLGBTパレードも計画しているんだ。Michael Cashman(元イーストエンダーズ俳優の労働党欧州議会議員)やヨーロッパ中のMEP(欧州議会議員)やMP(イギリス下院議員)、オスカー・ワイルドの孫、アーティストたち、各国の代表団や活動家たちが参加することになっている。参加希望者はGayRussia.ruのウェブサイトで参加登録できるし、もちろんイギリスからの参加者も大歓迎だ!これは歴史的なイベントになるよ!

DL: あなたの意見として、ゲイの権利を人間の権利として認識させることを阻害するのに世界の宗教の役割がどれくらい重要だと考えますか?

LGT: ヨハネ・パウロ2世とM.ラッツィンガー(現在はベネディクト16世)が、世界の「性の自由」に対する戦いにおいて重要な役割を果たしてきた。“カリスマ的”に、教皇はゲイ・レズビアンの権利を妨げる連携を強めてきた。これまで、カトリックプロテスタント正教会イスラム教の国々が連携して国連などで投票をしたようなことは一度もないのだ。 だが、ヨハネ・パウロ2世は違った宗教、宗派同士が神学的には合意できなくても、モラルの点では合意できることを知っていた。だから教皇はそのカリスマとともに世界中の国々を訪れて、その結果、ゲイ・レズビアンの人権に反対することに同じ志を持つ人たちが国際的、政治的同盟を作ることを可能にしたんだ。

DL: 今年、フランスではIDAHOのイベントがたくさん開催されましたね。開催されたいろんな活動の意図を教えていただけますか?今年のIDAHOでの経験から、よりよい方法は何だと思いますか?

LGT: そうだね。5月17日当日とその前後に、フランスでは25の街でディベートやデモ、TVやラジオの番組、展覧会、映画祭など100近くのイベントが開催されたんだ。すばらしかったよ。イギリスでのGALHAのキャンペーンも非常にすばらしかった。中でも、5月17日の夜8時に、すべてのLGBTのバーで1分間の黙祷をする、というのは特に良かったと思う。昨年はフランスでこれをきちんと企画するだけの時間がなかった。だから来年は、他の国々にも同じようにしてもらうよう提案したいと思っている。僕の意見として、経験と優れた実践を共有することは協働の利点の一つだと思う。

また、近いうちにより多くの団体に協力してもらうこともとても重要だね。IDAHOは決してトップダウンの中央集権的な組織ではない。IDAHOに関わっている組織はそれぞれが独立していて、ひとつひとつの組織がそれぞれイベントを運営でき、キャンペーン全体の成功に貢献できる。僕たちにはGALHAのように、その国でのキャンペーンの全容を記録し、メディア・キャンペーンを起こしたりする個人か団体が必要だ。でも、IDAHOはみんなのために、そして、みんなひとりひとりが行動するためにあるからね!